社会につながるデザインを〈妙蓮寺 tegusu Inc.代表 藤田雅臣〉(後編)

つくり手ケのまち

前編はこちら

多彩なデザインワーク

酒井:

tegusuさんが手がけられているお仕事は本当に幅広いですよね。

新横浜公園、NHKの教育番組、歴史ある酒蔵など、様々なクライアントのデザインやブランディングに関わっていますが、こういったお仕事はどうやって始まっていくものなのでしょうか?

藤田さん:

色々な分野のお客さんからお声がけいただきますが、実際には「パッケージを新しくしたい」「ロゴデザインをお願いしたい」などの、具体的なご相談から承ることが多いですね。

それでも詳しくご相談をお伺いするうちに「その事業でどのようなコンセプトを確立したいのか?」という、根本的な話に立ち返って、成り立ちを見直していくことも多くて。それで仕事が広がっていくケースも結構あります。

酒井:

そこまで掘り下げた仕事をすると、実際に行う作業も幅広いものになりそうです・・・!

藤田さん:

そうですね。ロゴや冊子、商品パッケージ、ウェブサイトや、施設のサイン計画、空間設計に関連することまで行うこともあります。守備範囲はかなり広い方だと思いますね。映像制作の方と協力しながら動画を納品することもあります。

酒井:

とても興味深いです。最近の目立つトピックとしては、「治一郎」さんのバウムクーヘンのパッケージもされていましたよね。

藤田さん:

はい。「迎春パッケージ」という、お年賀用バウムクーヘンの限定包装を制作しました。

治一郎さんは静岡県の浜松市が本拠地で、僕の出身大学がある場所なので、「お年賀に買ったよ!」などと、久しぶりに友人から声をかけてもらえたりして嬉しかったですし、携わらせて頂き感謝しています。

妙蓮寺に根を張る

酒井:

tegusuさんが妙蓮寺に移ってこられた経緯を教えていただけますか?

藤田さん:

もともと横浜暮らしは長いんですよ。フリーランスとして活動を始めた頃は大倉山の自宅にいましたし。

馬車道にあるシェアオフィス「mass×mass(マスマス)」さんのところで作業していた時期もありました。同業のつながりができたり、シェアオフィスならではの楽しい思い出もたくさんあります。

その後はスタッフが増えたりしつつ、横浜で拠点を転々とする時期が続きました。

酒井:

そこから妙蓮寺に移ることになったきっかけは何かあるんでしょうか?

藤田さん:

実は事務所を構える前に、僕自身が妙蓮寺に引っ越しをしていたんです。数年前に古い家をリノベーションして住みはじめたのですが、とても心地良い街だなとずっと愛着を感じていて。

それで2024年に一念発起して松栄さんに相談したところ、ちょうど駅前にぴったりな空き物件が出たという情報を教えていただいたんです。すぐに内見して、ここだ!と思って(笑) 無事に事務所をオープンできました。

酒井:

物件探しって、本当にタイミングと縁が絶妙ですよね。何年間待っても、なかなか希望するような物件に巡り会えない方もいれば、藤田さんのようにトントントンと話が進んでいく場合もある。本当にご縁があったんだろうなっていう印象がありますね。

酒井:

普段はオフィスをどのように利用していますか?

藤田さん:

普段は2階をオフィスとして、3名ほどのスタッフと働いています。1階部分はミーティングや作業場として利用していて、今後はワークショップやギャラリースペースとして活用する予定です。

せっかく商店街にデザインスタジオを作ったので、妙蓮寺という街との縁やつながりを意識して動くことが自然なことかなと思っていまして。

近隣の方が「このロゴデザイン、知っているよ」と声をかけてくださったりとか、1階のディスプレイに興味を持った親子さんと立ち話をしたりだとか。そういうちょっとした街の交流を、楽しむようにしています。

藤田さんの1日

8時
起床。猫好きだが、猫アレルギーのため、朝一番に部屋中に掃除機をかける
9時半頃
朝食と身支度を済ませ、菊名池公園を歩いて
tegusu事務所へ出勤
10時〜
朝のミーティング。チームの各自が作業に取りかかる
12時頃

ランチ休憩
午後
デザイン作業。日によっては外の打合せに向かうことも
20時〜21時ごろ
帰宅
22時頃
残った仕事をしたり、猫と遊んだり、映像を見たり
24時頃

就寝

この街に寄り添うメディアを

酒井:

この「ケの日のこのまち」というメディア、この特徴的な「ケ」マークのロゴや意匠を含め、そのクリエイティブはすべてtegusuさんが手がけたものです。さらに言うと、弊社の「くらしとすまいの松栄」というロゴも、藤田さんの仕事なんですよね。

刷新された「くらしとすまいの松栄」ロゴとコピー

藤田さん:

はい。松栄さんのロゴは20年ぶりぐらいのリブランディングで刷新したものでしたね。

酒井:

そうです。その時に、私たちが運営していた「菊名池古民家放送局」というメディアのリニューアルも行ったらどうか、と藤田さんからご提案いただいたんですよね。そこから「ケのまち」が誕生していって。

毎月発行の「ケのまちしんぶん」は、tegusu入り口でも好評配架中

藤田さん:

そうでしたね。その当時の会話で、酒井さんが「ハレ」か「ケ」で言うと、この街は「ケの日」が雰囲気として合うんだって仰っていたんですよ。

その言葉が妙蓮寺に住む自分にとっても腑に落ちる感覚で、この街のメディアを象徴するキーワードとして「ケ」がうまくはまった感じがありました。

酒井:

「ケのまち」のブランディングにあたって、どのようなことを意識されていますか?

藤田さん:

「街のローカルメディア」と言っても色々な形があると思うのですが、やっぱり主役はこの街に住んでる人やお店を営まれている人だと思うんですね。なので、その点を大切にしたメディアとなるよう、デザインにも気を配っています。

たとえば、「ケのまち」のロゴもカタカナの「ケ」をモチーフにしてますけど、実はこの形は縦横に伸びるようにデザインしています。これは、この街の多種多様な個性に合わせてフレーミングできるように設計しているんですね。

伸縮自在な「ケ」のシルエットは、この街の風景を飾るフレームとしても機能する

酒井:

「ケのまち」はWEB・動画だけでなく、紙媒体での発信も積極的にやってきましたよね。

藤田さん:

はい。「ケのまちしんぶん」ですね。ウェブで公開する取材記事をピックアップしてまとめたような冊子として、本屋・生活綴方さんでリソグラフ印刷させてもらっています。

デザインは僕らtegusuが担当しています。イラストも弊社の市原が描いています。記事執筆にはビーコンの石垣慧さん、撮影にはカメラマンの松本瑞生さん等が関わっています。

オール「ケのまち」住人で制作しているところも面白いなって思っていますよ。

酒井:

最後に、tegusuのこれからについて簡単に一言お願いします!

藤田さん:

今後も、デザイナーそれぞれが楽しんで制作に向き合える事務所でありたいなっていう気持ちが自分の中ではあります。長期間続くプロジェクトも多いなか、個人ではなくお客様も含めてチームで取り組むことに意味のある仕事を増やしていきたいなと思っています。

それと、僕はバンドのスピッツが大好きなんですが、スピッツみたいな姿勢のデザイン事務所を作りたいと思っていたりもします。

酒井:

おぉ〜!スピッツが藤田さんにとっての「テグス」なんですね。

藤田さん:

実際、そうかもしれないです(笑) 

彼らは長年歌い継がれるような名曲をたくさん作っていますが、自分たちの音楽にコツコツ向き合っている感じで、奇をてらうようなことはしないですよね。でも多くの人に愛されている。僕らも、そんな暮らしの中に自然とあるような“スタンダードナンバー”を生み出すような仕事ができればいいなと思っています。

<credit>
文/石垣慧
撮影編集/松本瑞生

tegusu Inc.

代表
藤田雅臣
事業内容
企業、団体、店舗、商品およびサービスにおけるCI、VI(ロゴマーク並びにシンボルマーク等)の企画・デザイン、グラフィックデザイン、パッケージデザイン、ポスター、カタログ、冊子等の企画、編集、デザインなど。
WEB
https://tegusu.com

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この記事を書いた人

酒井洋輔

酒井洋輔

編集長
くらしとすまいの松栄三代目。妙蓮寺生まれ・妙蓮寺育ち。農業を参考に、不動産と建築、街づくりが循環し、持続可能な形で成長するビジネスモデルを探求中。

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