まちに息づくふたつの書店〈妙蓮寺 石堂書店/本屋・生活綴方 店長 鈴木雅代〉(後編)

お店とケのまち

前編はこちら

インタビュアー:酒井 洋輔
(ケの日のこのまち編集長 くらしとすまいの松栄三代目)

ふたつの書店を行き来する

酒井:

石堂書店と本屋・生活綴方は姉妹店とも言える関係にありますが、それぞれのお店の特徴や違いなどを教えてください。

鈴木さん:

石堂書店は「街の本屋さん」として、日々の雑誌やベストセラー、実用書や漫画本などを街の人たちに届けるために営業しています。

新聞の書評欄をチェックしたりして、今揃えなくてはいけない本をちゃんと揃えていくというのがベースにあるんですよ。

本屋・生活綴方は、いわゆる「独立系書店」と呼ばれるスタイルの本屋ですね。独自にセレクトした本を、ジャンルやカテゴリーを横断するような形で並べています。

酒井:

綴方は「この本にはこういう読み方があるのかも」と気づきを得られるような並びが面白いですよね。

1949年創業の石堂書店と、本屋の新しいスタイルを提案する綴方。異なる2つの書店を営業することの難しさを感じることはありませんか? 

鈴木さん:

そうですね……。ここ10年ほどで、出版業界も大きく様変わりしてきているんですよ。流通や仕入の在り方も変わりつつあります。

石堂書店と綴方では仕入の方法も掛け率も全然違うんですけど、それぞれの強みを活かして売り上げを確保できるように工夫していますね。そこが難しいところでもあり、面白いところでもあります。

酒井:

石堂書店や綴方での働き方について、今まで勤めてきた大型書店との違いを感じるところはありますか? 

鈴木さん:

こっちではお客さんとのコミュニケーションを大事にしていますね。とにかくよく喋っているのが大きな書店との違いかもですね。

一緒に働いてくれている書店員の八木さん、直子さんもそういう素敵な接客が上手な人たちです。

人に対してすごく良いところを見つけるのが得意だし、日々嬉しかったことをお互いに話したりして盛り上がってます。3人とも「健康・元気・忘れっぽい」が共通項なので、そういうところも気が合うのかも(笑)

酒井:

なるほど。地域の方とお話していても「最近、石堂書店の品揃えが良くなったんだよ」と言われることはよくあるんですよ。

それも、鈴木さんをはじめとする書店員さんの朗らかなコミュニケーションがあるからこそ、ご要望を汲んだ品揃えを実現できているのかなとも思いますね。

鈴木さん:

えー!それは嬉しいです。

実際、仕入れのときに「あの人はこれ買うだろうな」って想像することもあるんですよ。

そして予想した通りにお買い上げいただく時がめちゃくちゃ嬉しい。なんてことない顔しながら、レジの裏で小さくガッツポーズしたりしてます(笑)

鈴木さんの一日

8時
起床
10時半〜

朝食を済ませ、出勤
11時

入荷した本の整理
12時

(オープン日には)本屋・生活綴方を開く タイミングを見て昼食へ
19時

営業終了 帰宅
21時ごろ
夕食 
23時ごろ
就寝

多彩な人の集う場所

綴方の奥には「リソグラフ印刷機」が稼働する工房が

酒井:

石堂書店の上にはコワーキングスペース(「本屋の二階」)があったり、綴方の奥にはリソグラフ印刷機のある工房や畑もあったりします。

綴方では「お店番」という形でお店のお手伝いをする人たちもたくさんいますよね。そうしたユニークな環境から、自分たちで本を作る営みも広がってきました。

本屋が妙蓮寺の一つの文化拠点というか、発信地にはなっているのではないかなと思うのですが、その辺りはどうでしょうか。

鈴木さん:

じわじわ妙蓮寺が世界に知れ渡ってきちゃってるかもですね(笑)

綴方は建物もそうだし、時間の流れ方とか、色々な意味で「隙間の多い場所」だと思っていて。だからこそお手伝いしてくれるお店番さんたちの存在は本当に心強いです。そういう味方になってくれる人が集まって、ここを面白いねって言ってくれる人がどんどん増えている気がしますね。

酒井:

本屋を目印に、色々な作家さんが移住するようになったり、他の都道府県から訪れてくれる方も増えてきている印象もありますよね。

鈴木さん:

私たちが外に積極的に出かけていくことも関係しているかもしれないですね。

「生活綴方出版部」を立ち上げた時、自分たちで作った本を「文学フリマ」というイベントで売ったら反響がすごくよくて。

本を色々なイベントで売りに行くようになったら、日本各地の書店や作り手とも繋がるようになっていったんですよ。

酒井:

そこから「本は港」「本や街」などのイベントの開催にもつながっていきましたよね。

鈴木さん:

はい。そういうイベントで「妙蓮寺ってこういう街ですよ」って一生懸命に力説するんですけど、そうすると「あんなにアピールされたら気になっちゃって」という感じで訪れてくれる方も増えてきて(笑)

本をきっかけに、遠くの人とも一気に仲良くなれる。そういう書店ならではの交流が生まれるのも、楽しいなと思います。


本屋は街のインフラ

酒井:

石堂書店はもちろんですが、綴方も妙蓮寺という街に本当に根付いてきたように感じます。

鈴木さんが店長となってからの5年間を振り返ってみての想いや、今後の意気込みなどがあれば教えてください。

鈴木さん:

よく本屋を「文化的なインフラ」と表現してくださる人もいますが、私は文字通りに本屋は街のインフラだと思っていて。

例えば、急に来なくなったお客さんに「大丈夫かな」って電話してみたりとか。本屋さんって昔からなぜだか信用があるから、生活の困りごとがあったらうちにまず相談がくるみたいな。そういう場にもなっているんですよ。

酒井:

街の公共を支える場所でもあるんですね。綴方もそうした場になっている気はします。

鈴木さん:

そうですね。だからこそ、ここでお店を続けることの責任はいつも感じていて。

石堂書店に来る年配のお客さんで「とにかくここが潰れたら困るんだ」って本当に口に出して言ってくださる方が何人もいるんですよ。

Amazonとか別の街の書店を使うことが難しい方もたくさんいらっしゃるんです。そういうお客さんの読書の楽しみを守るということに関しては、一生懸命でありたいなと。

「肝に銘じて」ではないけど、お店をとにかく毎日開けるっていうことが、地味だけど今一番大事な目標ですね。

石堂書店

住所
神奈川県横浜市港北区菊名1-5-9
WEB
045-401-9596
WEB
https://books-ishidoh.com

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この記事を書いた人

石垣 慧

石垣 慧

91年生まれの妙蓮寺在住。「出版社ビーコン」を主宰するほか、編集者として、また文筆家・校正者としても幅広く活動中。

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