まちに息づくふたつの書店〈妙蓮寺 石堂書店/本屋・生活綴方 店長 鈴木雅代〉(前編)

お店とケのまち

今回は妙蓮寺にある「石堂書店」とその姉妹店である「本屋・生活綴方」の店長を務める鈴木雅代さんにお話を伺ってきました。

インタビュアー:酒井 洋輔(ケの日のこのまち編集長 くらしとすまいの松栄三代目)

プロフィール

鈴木雅代

東京都出身、妙蓮寺在住。飛騨高山で家具製作に従事したあと、2005年に書店員のキャリアをスタート。2021年石堂書店/本屋・生活綴方に入社。書店を渡り歩いて石堂書店で5軒め。

酒井:

まずは恒例の「関係のない質問」からどうぞ!

最近ハマっていること
寄席に行くこと 新宿も浅草も好きです
100時間あったら
ここから歩いてどこまで行けるかやる
コンビニでよく買うもの

グミ菓子の「マロッシュ」
よく使うアプリ

Instagram
今年イチオシの音楽
BLACKPINKの活動再開がうれしい
弱点は
デスクワークが苦手なこと
最後に旅したのは
2年前に韓国へ
人生最大の買い物
若い頃、10万円で重いハンドルの旧車を買いました パワステついてなかった(笑)
17歳に戻れたら
親にありがとうって言いに行く
疲れた時の自分へのご褒美は
銭湯に行くこと
1億円あったら
石堂書店を建て直す

「ものづくり」に夢中な学生時代

酒井:

まずは鈴木さんの子ども時代の思い出から聞いてみてもいいですか?

鈴木さん:

はい。両親の地元である伊豆で生まれて、物心ついてからはずっと東京で育ちました。

子どもの頃は目立ちたがり屋ではなく、「裏方が大好き」な性格でしたね。例えば、学校でクラス劇とか催すときには、率先して小道具係に「はい!」って手を上げるみたいな。

酒井:

その頃からものづくりが好きだったんですね。

鈴木さん:

そうですね。「三つ子の魂百まで」じゃないけれど、今とほとんど変わらないかも。

手を動かすのがとにかく好きだったので、自分から親に申し出て、美術専門の中高一貫校に進むことにしました。

酒井:

どんな学生生活を送っていましたか?

鈴木さん:

通学に往復3時間ぐらいかかる学校だったので、電車でひたすら本を読んでいましたね。

最初はなんとなく「読書してるとかっこいいな」みたいなところから入ったんだけど、だんだんと太宰治とか夏目漱石みたいな、ちょっと屈折した感じの近代文学にも惹かれるようになっていって。

酒井:

多感な時期の読書という感じがしますね(笑)

鈴木さん:

そうですね(笑) 学校生活に関しては、実は自分は絵がとても下手で…。授業では平面絵画ばかりやらされるんですよ。私は立体造形が好きなので、その辺がけっこう辛くて。

それで今後どうしていこうかと考えたときに、ちゃんとものを作ってお金を得る仕事に挑戦してみたいと思って、木工の道を選びました。

綴方店内の本棚や什器の一部は、鈴木さんが製作しているそう

酒井:

木工を学んでいたんですね! ちょっと意外です。

鈴木さん:

はい。岐阜の飛騨高山にある専門学校へ進学しました。

2年間、家具を一通り作れる技術を学びました。飛騨高山は地場産業として木工業が盛んなので、そのまま就職しました。

木工職人から書店員へ

酒井:

飛騨高山ではどのような仕事をしていたんですか?

鈴木さん:

椅子とかテーブルの製作をすることが多かったですね。飛騨高山は「脚物家具」の名産地なんですよ。

当時は毎日全身「ワークマン」の格好。安全靴を履いて、時には耳栓して防じんマスクして、っていう感じで家具を作っていました。

酒井:

どれくらいの期間、職人として過ごしてきたんですか?

鈴木さん:

20歳から10年ほどです。その間、結婚して子育てをしたり、木工をやってる友人と、自分たちが作った工芸品や雑貨を売るお店を数年ほど手がけたりもしました。

酒井:

木工の道で色々と活躍されていたわけですね。そこからどのようにして、書店員に転身したのでしょうか?

鈴木さん:

ちょうどその頃、自分の生活を見直す時期に来ていたんですね。これからどうしていこうって悩んでいる時に、実家に近い関東地方に戻ってみようと思い立ったんです。

それで「神奈川あたりで木工関連の仕事があったらいいなあ」と思って仕事を探すんだけど、そんなのあるわけがないんですよ(笑)  DIY講師とか、ホームセンターのお手伝い程度の仕事しかなくって。 

酒井:

確かにこちらでは見つからなさそうですね。

鈴木さん:

何でもいいから働かなきゃと思って、とりあえずアルバイトを探したんです。

その時、引っ越し先の近くにあった「ブックス二宮逗子店」(※残念ながら現在は閉業)で「バイト募集中」と張り紙がされているのを思い出して、本も好きだしやってみようかなと。

酒井:

そこが書店員としてのキャリアのスタートだったんですね!

鈴木さん:

はい。その時に一緒に働いてた方が有隣堂の元専務さんで、色々と親身に教えてもらいました。「本屋が面白いって思ってるんだったら、もっと大きいお店で働いて勉強してきてごらん」とも言ってくれて。

3年ほどその書店で働いて、その後もいろいろな書店に勤めました。

石堂書店との出会い

1949年創業の石堂書店は、老舗の書店らしいのんびりとした雰囲気も魅力

酒井:

さまざまな書店でキャリアを積んでいったと思うのですが、石堂書店と出会うまでの経緯についても教えてください。

鈴木さん:

はい。当時は渋谷にある大型書店に勤めていました。旗艦店の立ち上げから入ったので、とても忙しかったです。

実はその頃から妙蓮寺に住んでいたのですが、恥ずかしながら石堂書店を知らなかったんです(笑) 夜まで働いて家に直帰するような生活だったので、この辺りを散策することもなかった。

酒井:

今となっては信じられない話ですね(笑)

鈴木さん:

はい。流れが変わったのは2020年ですね。コロナ禍の影響で、渋谷の書店も休業しなくてはならなくなったんですよ。それで久しぶりにすごく時間の余裕ができた。

暇なんで妙蓮寺をブラブラ歩いてたら「あ、こんなところに本屋がある」ってようやく気がついたんですね。通りを挟んだ向かい側にも、もう1軒ある。そのことにとてもびっくりして。

酒井:

そこから綴方を訪れるようになったんですね。

鈴木さん:

はい。綴方の「お店番」としてレジに立っていた青木直哉さんと話しているうちに、私もお店番やってみたいなと思うようになって通うようになりました。

その時、綴方を手がけているのが三輪舎の中岡さんだということも分かって。実は私、自分が企画した書店イベントを通じて、中岡さんとは面識があったんですよ。

石堂書店の夏の風物詩「ヨーヨーつり」はプール帰りの親子にも人気

酒井:

そうだったんですね! 鈴木さんがお店に来た時、中岡さんはどんな反応だったんですか?

鈴木さん:

その時のことは覚えていますよ。当時は石堂書店の2階に三輪舎のオフィスがあった頃ですね。オフィスを訪ねたら、中岡さんは私の顔を忘れてたみたいで。「あれ?」って顔されて。ちょっとショックだった(笑) 

それでも、お店番として綴方に通ううちに、お互いに色々と持ち寄る相談ごとも増えていったんですね。私も転職を考えていた時期だったし、中岡さんも出版社をやらなきゃいけなくて、綴方を日々まわしてくれる人を探していました。

酒井:

そこで中岡さんから店長業務を打診されたわけですね。

鈴木さん:

そうですね。当初は「綴方の店長をしてもらえないか」という相談を受けていたんです。でも、私は全部自分でセレクトして直取引するような経験はなくて、綴方だけでお店を回していく自信はなかった。

だから私の方から「石堂書店と両方かかわれるなら、ぜひやりたいです」と提案しました。

本屋・生活綴方

酒井:

それで二つの書店の営業に関わることになったんですね。

鈴木さん:

そうですね。はじめは石堂書店では社長の石堂さんと、長く勤めている八木さんの間に入る、「番頭」という立場で携わることになりました。

後編では、鈴木さんが本屋を営むなかで見える風景のこと、日々感じていることをお聞きしていきます。お楽しみに〜!

石堂書店

住所
神奈川県横浜市港北区菊名1-5-9
電話番号
045-401-9596
WEB
https://books-ishidoh.com

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この記事を書いた人

石垣 慧

石垣 慧

91年生まれの妙蓮寺在住。「出版社ビーコン」を主宰するほか、編集者として、また文筆家・校正者としても幅広く活動中。

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