3代続くまちのお風呂屋さん『親松の湯』後編

お店とケのまち

前編はこちら

堀さんの1日

石垣:

堀さんの1日の過ごし方を教えてください。

堀さん:

朝は大体、9時頃に起きて、まずは隣接するコインランドリーを開けます。そうしたら釜の火をつけて、お風呂の入れ替え。昼に開店してからは、妻と交代しつつ受付をします。

閉店後は、そのまま風呂掃除をはじめますね。乾かないうちにやっておくと効率がいいし衛生的なので。

結局、仕事終わりに寝るのは3時くらいになっちゃいますね。

9時
起床。開店準備と風呂の入れ替え
12時ごろ

お昼休憩
14時30分

開店。受付業務
19時ごろ

奥様と交代しながら夕食
23時

閉店
〜翌2時ごろ

お風呂の掃除
3時頃
就寝
堀さんは浴場隣のコインランドリーも営業している

石垣:

遅くまでお掃除したり、大変な労力をかけてお風呂を守っているんですね・・・。

堀さん:

でも、以前はもっと遅くまで営業していたんですよ。変わったのはコロナ禍から。この辺りの商店にも早じまいの習慣が生まれて、私たちも23時閉店に切り替えました。

良くも悪くも、この街の生活リズムが変わってきたような気がしています。

広々とした脱衣所には長椅子のほか、健康器具も

名建築のウラ話

ロビーから脱衣所、浴場まで。親松の湯さんでは、戦後の日本を支えてきた老舗銭湯の雰囲気をいたる場所に感じることができます。

石垣:

歴史のある建物だからこそ、聞いてみたいことはたくさんありますね。まず何と言っても、立派な天井のある脱衣所が目を引きます。

堀さん:

脱衣所の格天井(ごうてんじょう)と巨大な梁は、自慢ですね。

先代である父から聞いた話ですが、一説では、小机城を壊した時の木材を再利用しているのではないかという噂もあるみたいです。

改修も行いながら継承されてきた格天井

石垣:

なんとも歴史ロマン溢れる話ですね・・・!実際、お城でしか見ることのないような梁の太さをしていますよね。

堀さん:

そうなんですよ。あくまで真偽は分からないのですが・・・。

それでも、建築屋さんが見て「これだけの建材はまずお目にかかれない」と言いますからね。

「一体どこから持ってきたんだろう」という話になったりします。

石垣:

脱衣所に飾られている巨大な絵画も印象的です。

堀さん:

はい。移転した時代に、祖父の知り合いの方が記念にいただいた額を掛けていますね。私の父が趣味で描いていた油彩画なども飾っています。

石垣:

それと気になっていたのは、男湯の窓から立派な池が見えますよね。あの鯉はどうしてあそこに・・・?

鯉、めちゃくちゃ大きいです

堀さん:

はい。それにも理由があって。祖父はもともと、あそこに露天風呂を造ろうとしていたみたいなんです。配管工事までしてあったんですよ。

けれど、新潟から立派な鯉を持って帰ることがあって、それ以来ずっと鯉のための池になっているんですね。

石垣:

まさか「幻の露天風呂計画」があったとは思いませんでした!(笑)

ちょっと惜しい気もしますが、お風呂に浸かりながら見る鯉もまた乙なんですよね・・・。

街のお風呂屋さんにできること

石垣:

街の銭湯文化を未来にどうつないでいくのか。色々なご意見があると思うのですが、堀さんとしてはどんなお考えを持っていますか?

堀さん:

そうですね・・・。かつて神奈川区に40軒以上の銭湯があったのが、現在では4軒が残るのみとなっています。そういう時代の変化はありますよね。

令和の今、街の公衆浴場に求められる役目もまた変わってきているのではないかと思っています。

石垣:

今、親松の湯さんにはどんなお客さんが通っているのでしょうか?

堀さん:

地元の常連の方には本当に長い間ご愛顧いただいていますし、商店街の皆さんも通ってくれます。

神奈川大学の学生さんにとっての憩いの場にもなっています。特に、神大駅伝チームの子たちは毎日のように通ってくれますね。

さらに、最近は若いボクシング選手も来てくれているんですよ。

石垣:

幅広い世代の方がここに通ってくるんですね。

堀さん:

そうですね。通ってくれる皆さんはどなたも「やっぱり街のお風呂屋さんじゃなきゃ」って言ってくれるんです。

そういうお客さんの声にいつも励まされていますね。

石垣:

そういう街の声に、親松の湯さんは支えられているのかもしれないですね・・・!

堀さん:

本当にそうですよ、やっぱり。これから先も、できる限りは続けていきたいなという思いです。日々通ってくれる、若い人たちのためにもね。

編集後記

ケのまちでは隠れた常連さんも多いという人気銭湯への取材は、意外なエピソードに満ちた充実のインタビューとなりました。

いつも通ってくれる学生さんやアスリートの皆さんを、これからもお風呂で応援していきたいと話す堀さん。そのやわらかな語り口に、利用者さんを第一に大切にする姿勢が垣間見えます。

六角橋の日常にある、ほっと安らぐようなお風呂屋さん。皆さんもぜひ一度は訪れてみてくださいね。

親松の湯

住所
横浜市神奈川区六角橋2-15-5
WEB
https://k-o-i.jp/koten/shinmatsunoyu/

この記事をシェア

  • URLをコピーしました

この記事を書いた人

石垣 慧

石垣 慧

妙蓮寺在住の編集・ライター。『生存報告マガジンBEACON』を年刊発行している他、いろいろな書籍・リトルプレス等に関わっています。

このライターの記事

RECOMMEND