肉道を追求する親子が営む、まちの肉屋〈肉のキタムラ 北村勇樹〉(後編)

お店とケのまち

酒井:

前編では、肉のキタムラの生い立ちなどをご紹介いたしました!
引き続き、後編をお楽しみください!

前編はこちらから! 

日本の豚肉の品質を上げるための「目利きノート」の存在

勇樹さん:

キタムラで働くようになって約1か月の駆け出しの頃、目利きを学ぶために初めて行ったセリで、人生で始めて選んだ枝肉※が、
『肉締りからサシから、なにもかもがパーフェクトな肉』だったんです。

だけど当時は駆け出しの素人だったので、なんでこんなにいい豚肉を仕入れられたのか、がわからなくて。

※枝肉=頭・内臓・尾・肢端(したん)をとり去った肉。

勇樹さん:

セリでは600~700頭の中から2~3頭を選んで、年間で合計300頭くらい仕入れるんですけど、
その日仕入れた豚肉の番号と重量、格付け、肉質、脂質、特徴など全てを、毎日欠かさずノートに記録していました。

毎回、目利きを勉強するのが、楽しくて楽しくて。

目利きノートの実物

気づくと5,000~6,000頭の豚肉の詳細情報が詰まったノートを作り上げていた勇樹さん、そんな勇樹さんの元に、JA(農業協同組合)から

北村勇樹さんに、肉の話を聞きたい

と講演の依頼が来たことも。(多忙で実現はしなかったそう)
今では、横浜で豚肉の目利きで勇樹さんの右に出る者はいないと評価されるまでに!

勇樹さん:

僕もいい豚を仕入れたいので、1年間書き溜めたノートを毎年、生産者さん、JA横浜支部の方に渡しているんです。

この親の系統とこの系統を掛け合わせて、このエサをあげるといい豚ができる、などすべて数値化して、だんだんといい豚肉ができるようになってきたんです。

すごい情報量です・・・

勇樹さん:

豚に関しては『やまゆりポーク』という、ダントツにいい豚があるんですけど、
週三回しか行われないやまゆりポークのセリに行って、自分で目利きして一頭買いしてきます。

仕入れを行っている市場(勇樹さん撮影)、この状態で良い肉を見分けるのは至難の業、、、

豚肉も牛肉も一頭買いにこだわる理由

酒井:

一頭買いは牛もですか?

勇樹さん:

はい。豚肉も牛肉も一頭買いです。

例えば、問屋から肉を仕入れていたら、生産者が別々の肉が届いてしまうので、バラ肉は美味しいけどロース肉は不味かったということになってしまい、店として味が均一化するわけがないんです。

どの部位も品質に絶対の自信をもってご提供できるように、うちは昔から一頭買いにこだわっています。

お肉の話になると楽しそうな表情に。

勇樹さん:

一頭買いした肉は、骨を抜いたり筋を引いたりお客様に出したくない部分を全部削ぐんです。

例えば、1頭10万円で仕入れて20万円の売上げになったから倍になったよね、という話ではなく、一頭買いは捨てる部分がとにかく多い。

腱鞘炎をおこしている部分だとか、屠畜のときに叩かれて腫れていたりとか、そういう部分はお客様にお出しできないので、うちは全部捨てるんです。

酒井:

凄すぎます…!
だからキタムラさんのお肉は美味しいんですね、ちょっと感動しました

全国の中で一番安定している牛肉の提供

勇樹さん:

今、肉用牛経営※の傾向として『一頭の大きさを大きく育てること』が増えています。

その方が、重量も増えるので一頭あたりの値段が高くつくんです。

※肉用牛経営(にくようぎゅうけいえい)・・・牛を飼い牛肉を生産する経営のこと。

勇樹さん:

生産者さんの利益も考えないといけないのですが、どうしても大きく成長するとその分、筋繊維が固くなってしまったり、筋や骨が太くなったり…味が落ちやすくなってしまうんです。

勇樹さん:

今、日本全国の牛肉を吟味した中で、大きさや、味、血統、餌の品質が安定しているのは『山形牛』だと思っています。

だから、今うちでは山形牛を扱わせてもらっていて、中でも処女肉というお産を経験していない牛を厳選しています。 お産を繰り返すとどうしても肉にダメージがでてしまうので…

勇樹さん:

山形で目利きされた牛肉は、チャーターした貸切トラックで運ばれてきます。

一頭買いをした証である『子牛登記』は、生年月日、父牛や母牛、祖父牛、祖母牛、餌の状態までわかるので、店頭に貼ってあります。是非見てください!

朝昼ごはん抜き!一日のスケジュール

勇樹さんの1日のスケジュールがこちら。 

勇樹さん:

肉屋って基本完全な肉体労働で…(笑)
1年間ずっと忙しいので、基本的に朝・昼ごはん食べないんです。

その反動で晩御飯だけがっつり食べてたら、どんどん太っちゃって(笑)

自分以外は休憩取らせますけど、自分は手を止めてる時間ないなと思って、集中して肉を切ってます

勇樹さん:

あと、ショーケースはパイプを凍らせて冷やすタイプなので、夏場なんて朝来て1、2時間冷やしておかないと並べることも切ることもできないんですね。だから朝早く来ないといけない。

ネットや電話注文を対応しているのも勇樹さん。年の瀬になると大量にいただく加工品の注文を、休み返上で対応することも。 

勇樹さん:

ご依頼いただいたら、僕が返事を返しています。
本当は全商品ネット注文可能にしたいんですけど、あまりに忙しいので今は加工品を中心にやらせて頂いています。

今後は商品数を増やせていければと思っています。

酒井:

加工品の中で人気な商品は?

勇樹さん:

コンビーフやベーコンは特にご好評いただいています。

絶品のコンビーフ!

酒井:

思い入れのある商品は?

勇樹さん:

全部です。全部命かけてやってます!

尊敬する父への素直な想い

酒井:

最後にお父さんに何か一言お願いします。

勇樹さん:

えーー(笑)そんな質問あるんですかー(照)!!

照れる。
照れてる。
恋人か!!(笑)

酒井:

いや、そんな悩むなら、、、ナシでも大丈夫ですよ(笑)

勇樹さん:

いや、そこはちゃんと言います!

真剣な表情に。

「数年で全てバリっとするんで、 引退まで仲良くやりましょう!」   

酒井:

貴重なお話、ありがとうございました!!

編集後記

昔から肉のこととなると、熱くなりすぎるお父さんでしたが、気づけばそんなお父さんの背中と重なる勇樹さんの姿がありました。

代替わりを見据える中で、最近ようやく、お父さんに「一息つく時間」を持たせることができ始めたんだとか。

そんなお父さんの日課となりつつあるのが、お孫さん(勇樹さんの息子さん)との入浴。

この話を聞いたとき、 目尻を下げてお孫さんと接しているお父さんの姿が頭に浮かんできて、「きっと、忙しくて幼い勇樹さんにできなかったことを、お孫さんにしているんだろうな」と感じました。

肉のキタムラの「肉」と「家族」に対する愛情が、ほんの少しだけ垣間見れたインタビューでした。

これからも、妙蓮寺で最高のお肉を提供し続けて下さい!!ありがとうございました!!

肉のキタムラ

電話番号
045-421-1129
住所
横浜市港北区菊名1丁目7-13
URL
http://www.nikunokitamura.com/

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この記事を書いた人

酒井洋輔

酒井洋輔

編集長
くらしとすまいの松栄三代目。妙蓮寺生まれ・妙蓮寺育ち。農業を参考に、不動産と建築、街づくりが循環し、持続可能な形で成長するビジネスモデルを探求中。

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